気になるバイオニュース、ちょっとマニアックな鉄道模型、心に滲みる酒場、まだバックパッカーという言葉が輝いていた時代の旅の話を中心に、徒然なるままに…


by Katsu-Nakaji
理化学研究所の研究チームがこのほど、ヒトES細胞(胚性幹細胞)の大量培養を可能にする技術を開発したと発表しました。

ES細胞は身体のほとんどあらゆる組織に分化することができるため、傷ついた神経や機能を失った臓器の再生治療の切り札と考えらています。ただ、倫理的は問題を抜きにしても(これ自体大きな問題ですが)、さまざまな問題が横たわっており、実際の医療への応用への道のりは遠いのが現状です。その問題の一つが、ヒトES細胞の大量培養は難しいということでした。大量の細胞が手に入らなければ、必要な組織や臓器はつくれません。

大量培養ができなかったのは、ネズミのES細胞などとは違い、ヒトES細胞が培養課程ですぐに死んでしまうためです。これを細胞死といいますが、その細胞死のため、従来の培養方法では99%の細胞が培養2日以内にだめになってしまいます。

理研は、細胞死を引き起こすROCKという物質(酵素)を見つけ、この働きを封じるY-27632という別の物質を培養液に加えたところ、従来の方法に比べ培養効率が約30倍に増加したと報告しました。おかげで、これまでは一ヶ月で100倍程度にしか細胞を増やせなかったのですが、新方式なら理論上1万倍に増やせるというのです。加えて、培養したES細胞が脳の神経を作るもとになる細胞に分化することにも成功したとしています。

これらのこと自体は、ES細胞研究にとって非常な朗報ですが、あくまで研究段階の話です。ES細胞は、基本的に無限に増殖するという点でガン細胞と同じ。それを体内でガン化させずに、どのように望むような組織に分化させるか、免疫反応をどう抑えるか(他人の細胞を体に入れると、それを外敵と認識して免疫システムが攻撃を始めるのです)等々、解決すべき問題は山ほどあります。そうした技術的な問題が解決されて医薬品が開発されても、厚生労働省が認可するまで何年かかるやら。あと、20-30年もすれば実用化が始まっているかもしれませんし、そうではないかも知れません。

たいていマスコミは、バイオで新しい発見があると決まって「~病の治療法開発につながる可能性がある」などと報じますが、可能性があるだけです。それを聞いた患者やその家族は本当に直ってしまうと勘違いするかも知れません。勿論、希望を持つことはそれだけで病気を治す力になるのですが、研究者や報道機関はやはり、本当に実用に近いものかそうでないものなのか、また問題は何なのか、きちんと伝える責任があります(自戒を込めて、そう思います)。そうすることが一日も早い医療への応用を可能にして患者を救うことにつながるからです。

ヒトES細胞大量培養成功を一部のメディアは大々的に取り上げました。しかし、それは難病を患っている人の期待を無用に膨らませるだけです。むしろこれを機会に、ES細胞の研究は必要なのか、もし必要ならいかにそれを迅速に進展させることができるのか、真剣に論じるべきです。
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by Katsu-Nakaji | 2007-05-29 20:04 | バイオニュース | Comments(0)