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気になるバイオニュース、ちょっとマニアックな鉄道模型、心に滲みる酒場、まだバックパッカーという言葉が輝いていた時代の旅の話を中心に、徒然なるままに…


by Katsu-Nakaji

多比良・東大教授が懲戒解雇に3

ー調査委員会に問題はなかったのか(続)ー

東大調査委員会は2005年4月1日に日本RNA学会の依頼を受けて設置されました。同学会は委員会設置依頼の経緯をこう説明しています。

「昨年来、日本RNA学会宛に、本学会の会員である多比良和誠教授(東大)発表のRNA研究論文の何件かについて、実験の再現性などに疑義がある旨、国内外の複数名の研究者から連絡がありました。
学会は、本来、このような問題を扱う機関ではなく、研究上の協力、連絡、意見交換を行う場であります。しかし、この件を看過すれ ば、科学研究の信頼性および日本のアカデミズムの国際信用の低下をまねく可能性も考えられます。そのため、本年3月、中立な立場から、国内外の専門家6名に同教授の十報余の論文について意見聴取を行いました。その結果、全員から実験の再現性に問題があるとの指摘があり、加えて論文の内容についてもさまざまな疑義が呈されました。よって遺憾ながら、学会はこの調査により同教授の論文に関する疑義を払拭するには至りませんでした。
  この件が同教授自身と所属する東京大学の社会的信用、さらには教育の問題にも深くかかわることから、本年4月1日、本学会は同大学大学院工学系研究科にことの経緯を伝え、事実関係の調査を依頼しました。(中略)
  本学会は、アカデミズムが社会に果たすべき役割を自覚し、引き続き、中立かつ公正な立場で調査の進展を見守りたいと考えております。さらには、必要であれば、科学的検証についても協力し、RNA研究分野の堅実な育成につとめる所存でおります。しかしながら、学会は調査機関ではなく、また、日本の科学研究の信頼性に関わるさまざまな報道が続いている昨今、我が国においても、独立した第三者による『研究倫理委員会』(Committee on Ethics in Research)の設立、およびこのような問題に対処するための『ガイドライン』の作成が望ましいと考えております。」


この発表文は特定していませんが、同学会が東大 調査委員会に調査を依頼したのは全部で12篇。調査委員会はこのうち「実験結果の再現性の検証が比較的容易であると判断された」4篇について多比良教授側に再実験を要請しました(この理由についても誠実な説明ではないと思いますが、それは後述します)。

引用が長くなりましたが、(1)学会が主体的に問題を取り上げたわけではない(2)調査機関ではない(3)公正中立な立場である(4)東大の信頼に関わる問題である (5)事実関係の調査を依頼した(6)調査には非主体的に協力するーという点がこの声名のポイントとして挙げられると思います。

あくまで「第三者だよ」と言いたいのでしょう。しかし本当にそうなのか…

(1)について、この問題が明らかになった時点で、東大の対応を評価する声がある一方で、「なぜ直接著者本人や論文掲載誌ではなくRNA学会に指摘がなされたのか?」との声も聞かれました。同学会への直接のクレームはあまり例にないようです。確かに、少なくとも海外の研究者一人が「再現できない」とのメールを送ったようですが、国内研究者とは誰だったのか。彼らの意見が看過できないほど影響力を持っているとするなら、ネット掲示板上が主な活動場所の学生やポスドク君達であるはずがなく、当然RNAの専門家かつそれなりの地位についている人物であり、同学会のメンバーであるとみるのが妥当でしょう。RNA学会自身が「火を点けた」可能性は否定できません。

また、意見聴取した6人の内外専門家ですが、学会から意見を求められるまでなぜ多比良教授関連論文への疑義を、先ず内部的にでも良いから呈さなかったのでしょうか。同教授もRNA学会のメンバーであり、学会が「意見交換」の場でもあるはずなのに。問題ありとされた12論文のうち一番古いものは1998年に発表されています。評価する時間は十分ありました。読んでなかったのでしょうか?それは有り得ないでしょうが、もしそうだとするならRNA研究者として怠慢です。

多比良教授は国内外での講演も多く、私も結構な数を取材しました。自分のような素人をだますのは簡単でしょう。けれども聴衆の大部分が専門家。なのに講演後の質疑応答で、「おかしいのでは」といった指摘は聞かれませんでした。

もし同教授の論文に問題があるなら、こうした講演会は本人に直接疑問点を質す絶好のチャンスでもあります。にも関わらず、どうして日本のアカデミズムの国際信用性低下を憂うRNA学会メンバーがそうした機会を活用せずに問題を先送りしたのか、普通の人間は理解に苦しみます。もし多比良教授が「信憑性のない論文を再三作成した」(東大調査委員会)のであれば、何もしようとしなかった同学会は間接的にそれに加担したことになってしまうのではないでしょうか。(まだ続く)
by Katsu-Nakaji | 2007-02-05 21:55 | 東大論文捏造問題 | Comments(0)